76.私たちの「関係」は

「おっ、今日も柾木が案内してくれるのか」  次の日。  珍しくも私は、「元の姿」で「組織」にやってきた秀樹と出会う。  いや、「別の姿」になるためここにやってきたこともあるわけだから、この姿で「組織」にやってきたのは今日が初めてじゃないけど……。あえていうと、「男同士」な形で「組織」で出会うことになったのが初めて、だと...

75.これが「幸せ」というものかな

 次の日、つまり土曜日の朝。 私は珍しくも「元の姿」で、いつもの大きな公園の前で秀樹のことを待っていた。まあ、昨日慎治たちにも話したように、「デート」のためである。  ……今度が初めてのデートでもないというのに、なんでここまで心がドキドキするんだろう。  自分のことだというのに、こういうところはよくわからない。  まあ...

74.あの頃の思い出

「んで、昨日の夜は恋人同士でいちゃいちゃしてたって話か?」  私がようやく「組織」に戻ってきて、お仕事ばかりしてから廊下へ出てくると、まるで待っていたように、慎治が「端末」でゲームを楽しんでいた。  まあ、つまりいつものような風景である。  こいつ、まともに訓練はやってるんだろうか。いつもながら気になるな……。 「おい...

72.今夜は月が綺麗だから

「おお、柾木んちに来るの、久々!」 「……そこまで嬉しいのか、まったく」  ようやく心身とも余裕ができて、私は久しぶりに、秀樹を連れて家に戻ってきた。  やはり家の中は落ちつくな。当たり前だけど。  最近はずっと会社……「組織」にいてばかりだったから、久々に味わう家の空気がなぜか愛しく思える。 「でも、ここに来ると柾木...

71.ついに、八月

 秀樹と恋人同士になって、雫と美由美との問題も無事に解決されてから。  気がつけば、もう八月になっていた。 「柾木、柾木っ!」  だんだん周りが暑くなっていくことを感しつつ、クーラーの効いた実務室で今日も朝から作業に夢中だった時。  誰かが……っていうか、秀樹がすごい勢いでこっちのことを呼びながら走ってきた。  ……一...

Ex02. もうひとつのイクリプス

 みんなには普通に、いいヤツのように振る舞っている。 だが、心の中では寂しかったり、苦しかったり、そういう暗い感情も渦巻いていた。 誰にもこんな心の中なんか、バレたくない。きっとみんな遠ざかってしまうから。 ずっと、そんなふうに思っていた。以前彼女ができた時だって、それは変わらなかった。 だから、これからもずっと、自分...

70.そして、私たちは

 美智琉と再び出会ったのは、それから少し日が経った時だった。 ――今度こそ美由美の兄弟たちにお菓子をちゃんと渡そう。 そんなことを思いながら大通りを歩いていると、ふと、図ったように美智琉と出くわすことになったんだ。 「ところで、それからそっちは大丈夫だったか?」  すべてを語った私がそう聞くと、美智琉は複雑そうな顔をし...

67.勇気の一歩

 私たちが美由美の家があるマンションの3階までやってくると。  「美由美の父親」だと思われる男が、廊下で姿を現した。  その男は、ずいぶん汚い服を着ていた。  きっと、自分が周りからどう見えるかなんて、考えてないんだろう。長い間投げやりの生活を送ってきたからか、男の眼差しには迷いが感じられなかった。  たとえば、「何も...

66.わたしは普通じゃないかもしれないけれど

 次の日の昼。「組織」の近くにあるいつもの公園。  すっかり常連になってしまったな、としみじみ思いつつ、私は美由美とまたここにやってきた。  別に大した理由があったわけではない。  ただ、なんとなくここでいっしょに時間を過ごそう、という空気になった。 「あの、柾木くん。さっきからずっとそわそわしてますけど……」  私の...

65.資格とか、そういうものなんて

「な、なんですか。いきなり呼び出して」  美由美と出かけてから少し時間がたったある日。  私は珍しく、以前の番号を利用して美智琉をあの喫茶店まで呼び出していた。  もちろん、理由もなく呼び出したわけじゃない。こっちはちゃんと、美智琉に用件があったんだ。 「さあ、受け取ってくれ」 「な、なんです?!」  私が懐の中で「そ...