71.ついに、八月

 秀樹と恋人同士になって、雫と美由美との問題も無事に解決されてから。  気がつけば、もう八月になっていた。 「柾木、柾木っ!」  だんだん周りが暑くなっていくことを感しつつ、クーラーの効いた実務室で今日も朝から作業に夢中だった時。  誰かが……っていうか、秀樹がすごい勢いでこっちのことを呼びながら走ってきた。  ……一...

Ex02. もうひとつのイクリプス

 みんなには普通に、いいヤツのように振る舞っている。 だが、心の中では寂しかったり、苦しかったり、そういう暗い感情も渦巻いていた。 誰にもこんな心の中なんか、バレたくない。きっとみんな遠ざかってしまうから。 ずっと、そんなふうに思っていた。以前彼女ができた時だって、それは変わらなかった。 だから、これからもずっと、自分...

70.そして、私たちは

 美智琉と再び出会ったのは、それから少し日が経った時だった。 ――今度こそ美由美の兄弟たちにお菓子をちゃんと渡そう。 そんなことを思いながら大通りを歩いていると、ふと、図ったように美智琉と出くわすことになったんだ。 「ところで、それからそっちは大丈夫だったか?」  すべてを語った私がそう聞くと、美智琉は複雑そうな顔をし...

67.勇気の一歩

 私たちが美由美の家があるマンションの3階までやってくると。  「美由美の父親」だと思われる男が、廊下で姿を現した。  その男は、ずいぶん汚い服を着ていた。  きっと、自分が周りからどう見えるかなんて、考えてないんだろう。長い間投げやりの生活を送ってきたからか、男の眼差しには迷いが感じられなかった。  たとえば、「何も...

66.わたしは普通じゃないかもしれないけれど

 次の日の昼。「組織」の近くにあるいつもの公園。  すっかり常連になってしまったな、としみじみ思いつつ、私は美由美とまたここにやってきた。  別に大した理由があったわけではない。  ただ、なんとなくここでいっしょに時間を過ごそう、という空気になった。 「あの、柾木くん。さっきからずっとそわそわしてますけど……」  私の...

65.資格とか、そういうものなんて

「な、なんですか。いきなり呼び出して」  美由美と出かけてから少し時間がたったある日。  私は珍しく、以前の番号を利用して美智琉をあの喫茶店まで呼び出していた。  もちろん、理由もなく呼び出したわけじゃない。こっちはちゃんと、美智琉に用件があったんだ。 「さあ、受け取ってくれ」 「な、なんです?!」  私が懐の中で「そ...

64.あなたの、いちばんの友だちになりたいけれど

「ところで柾木、高梨さんとのデートは上手く行った?」「あ?」  美智琉とカフェで話してから、次の日。  私はなぜか、久しぶりにこの「組織」までやってきた秀樹にそんなことを聞かれていた。 「何言ってるんだ、まったく」 「え~? 以前のあれって、誰からどう見てもデートでしょ?」 「だ、だから、そんなものじゃなくて……」  ...

63.美智琉の一言

「何日かぶりですね、高坂さん」 「はいはい」  美由美といっしょに出かけてから少し時間が経ったある日。私はなぜか、美智琉に呼ばれて「組織」の近くにあるカフェにやってきていた。  いったいどうやったのかはわからないが、美智琉、私の「端末」の番号を調べたらしい。  ……まあ、たぶん美由美になんとか聞き出したんだろう。  私...

メモ01

「お前、そんな生き方で楽しいのか?」  そう後ろから話しかけられたとたん、私の心が、ぎゅっと凍ったような気がした。  ここはただの女子高校のグラウンド。ついでに、体育の時間が終わったところ。  クラスメイトであるその人は、まるで子供の頃のガキ大将がそのまま女の子になったようなイメージ。  ぶっきらぼうで、誰にも壁を作っ...

62.美由美とのデート

「そ、それにしても、さっきはびっくりしました」  しばらく時間が経ってから、とあるオシャレなカフェの中で。  アイスチョコレートドリンクを口にした美由美が、そんなことを話してきた。 「あ、ひ……橘たちのことだな」 「呼び方は別に今までで大丈夫です。橘さんと柾木くん、付き合ってるのは周りから聞きました」 「そ、そ、そうか...