マチロジ・聖剣なんていらない
あの時、へんてこな剣さえ抜かなければ―― 今、ヒマリは猛烈にそう後悔していた。 それはある晴れた朝の出来事。 いつものようにあくびをしながら学校のグラウンドへ出てきたヒマリは、その真ん中に、明らかにおかしいものが刺されていることに気づく。「……何?」 そこに刺されていたのは、誰からどう見ても子供向けのおもちゃの剣。...
あの時、へんてこな剣さえ抜かなければ―― 今、ヒマリは猛烈にそう後悔していた。 それはある晴れた朝の出来事。 いつものようにあくびをしながら学校のグラウンドへ出てきたヒマリは、その真ん中に、明らかにおかしいものが刺されていることに気づく。「……何?」 そこに刺されていたのは、誰からどう見ても子供向けのおもちゃの剣。...
少し時間が経ってから。 「さあ、ここよ。あいつのいる交番は」 「へーなかなか立派なところですね!」 「……あのさ、どこをどう見ればそんな意見になるわけ?」 今、ヒマリたち、つまりヒマリと雪音、健太郎……の姿をした沙絵は、あの結城真尋のいる交番の前にやってきたところだった。ヒマリからすると、ここに来るのはずいぶん久し...
「こ、こいつ、いつの間に……」 いつものような学校の空き教室(ぶっちゃけ、ここは空き教室だらけだが)。 ヒマリがスマホを見ながら独り言をしていると、この教室までやってきた雪音が首を傾げた。 「どういうこと?」 「いや、別に。ちょっと面倒くさいことになっただけ」 そう言いながら、ヒマリはそっと視線をそらす。雪音はくす...
「あれ? あんた、なにやってんの?」 その日も遅く学校に戻ってきたヒマリは(すでに真夜中であった)、紗絵がグラウンドで、とある女の子をおんぶしていることを見つける。話を聞くと、最近よくここに現れて、こっちに甘えてくるため、こんな風に紗絵がいっしょに遊んでくれているらしい。「子供?」 紗絵がそう話すと、ヒマリはうさんくさ...
「あっもー腹立つ!」 その日のヒマリはなぜか妙に不機嫌だった。どうやら、昨日のことをまだ根に持っているらしい。 もちろん自分が負けたのもそうだが、その日の夜、ヒマリを含めたみんなは、例のノートに自分の動きを書き込んでおいたのだ(これだって立派な記録だから、というヒマリの主張によって)。それをいつもの教室で読んでいたヒマ...
「最近、暑いですねー」「まあ、真夏だからね。仕方ないでしょ」「そういや、男の方は服を脱いても平気ですし、お得ですね。涼しそうです」「……ものすごく単純な思考だな、そりゃ」「いつかわたしもできたらいいな……あっ!」「こいつ、消えやがったぞ……って、ひょっといたら?!」 「ほ、ほんとだ。涼しいっ!」「あ、あんた、真昼になに...
「さて、やっぱりユーチューバーならこれをやらなきゃダメでしょ。じゃがりこ面接!!」「そうなんですか?」「あたしの中ではそうよ。じゃ、試しにやってみようか」 「悲しくて!じゃがりこ!怒ってて!じゃがりこぉ!!」「なんか、ヒマリさんの声を聞いてると、今夜は荒ぶるじゃがりこの夢を見られそうっスね」「なんだって?」「す、すいま...
そろそろお昼になる頃。 学校の4層の廊下を、雪音と羽月が並んで歩いていた。どうやら二人は、何かについて穏やかに話し合っているらしい。遠くから見ると、あの二人はデキているのでは、と思ってもおかしくないくらい、どこか大人の雰囲気を漂わせていた。 「そういや、ヒマリさんとは長いつき合いだと聞きましたが」 と、羽月が丁...
これからあたしたち、いったいどうなるんだろう。 いつもの路地を歩きながら、ヒマリはそんなことを思っていた。時間は昼頃。ご飯を食べてから心地よく散歩するには絶好の日和だ。かなり暑いため、それどころじゃないことは玉に瑕だが。 それに、今、ヒマリの気持ちはそこまで浮かんでいるわけじゃない。いや、むしろ沈んでいると言って...