05. 黒ロリな私

 自分の部屋に戻って、少し時間に余裕がある時、私がよくやることは。

「はあ……しあわせ……」
 こうしておいしいお菓子を前に、好きな黒ロリを着てゆったりすること。
 私にとっては、この時間こそかけがえのないものだった。
 外から見ると、これはきっとおかしな光景なんだろう。
 もういい歳した女の子が、こんな子供みたいな服を着て、大きな鏡の前でお菓子を頬張るだなんて。
 人によっては、こんなの見たら引いてしまうかもしれない。
 別に、そんなことくらいは自分でもわかっていた。

 私が黒ロリを好きになったきっかけは、小学生の頃、一般に市販されはじめた端末を買ってもらった時、偶然見つけたあるサイトだった。
 ――すごい。目の前に、ものすごくかわいい服がある。
 なぜかそこに載っていた服にとても惹かれた私は、その以来、お小遣いなどでああいう服を買い始めた。
 それを一人で着てから、ゆっくりとお菓子を食べたり、鏡の中の自分を眺めるのが好きだった。
 なぜかこうしていると、不思議に落ちつく。
 普段は自分からみてもけっこう大人しめな性格なのに、なぜか、とても心地よかった。
 一人でこの服を楽しむ、そんな時間が長く続いたらいいな、と思えた。
 もちろん、誰かに見られるのは恥ずかしい。外で着るなんて論外で、こうやって、部屋の中で密かに黒ロリを楽しむのが私の楽しみだった。

 きっと自分なんて、他の人から見ると、ただの変な女の子なんだろう。
 わりと現実的な性格なのに、家ではこうしてかわいい服を好んで着ている。今だに好きな髪型はツインテールだし、こんな服を着て、かわいくなった自分が好きだし。
 甘いお菓子を作ったり、こんな体型だけどあまり気にしてなかったり。むしろかわいい服がまだ着られるのが嬉しかったり。
 わかってはいるけど、やはり、私は「こんな」自分が好きだ。
 クラスのみんなに変な目で見られても、あの橘さえ幻滅したとしても、これだけは譲れない。
 こんなの知られたら、誰だって絶対に引くのだろうけど。
 仕方がない。笑っても泣いても、それが自分というものだから。

 でも、こんな時間は長く続けられない。
 私が「ありのままでいられる」時間なんて、所詮こんな感じだ。
 そろそろ時間だった。
 私には、「別の姿」でやらなければならない、いちおう、重要なお仕事がある。
「はあ……この時間も、もう終わりか」 
 やはり、名残惜しいな。
 食べ残したお菓子も、この穏やかな昼の日差しも、すべてがただ、惜しい。

 だが、今は仕方がない。
 すでに何度も経験した惜しさや辛さを振り切って、私は立ち上がった。