おくさまのスタートアップ

 ある日の朝、目が覚めた起業家の奥さん・静は、自分の目を疑いました。

 だって、昨日の夜に自分が寝ていた寝室はどこへやら、誰からどう見ても、大学生くらいの男子が使っていそうな一人部屋が周りに広がっていたのです。それどころか、よく見てみると、自分自身すらこの部屋にピッタリの、「なぜか夫の名字を持つ、経営学部の若い男子大学生」になっているのではありませんか。

 信じられないことばかりでしたが、とりあえず、静は「今の状況」で生きるためどうにか足掻きます。いきなりの大学生活にせよ、「若き男子」としての生活にせよ、奥さまであった静には激しすぎて疲れそうな世界でした。

 その時、静は、まるで自分をよく知っているような、不思議な男と出会います。

「今の状況で、スタートアップをひとつ立ち上げて、安定させてみせろ。そうしなければ、お前は元の環境に決して戻れない」

 いったい、これはどういうことなのでしょう。あまりにも突飛すぎて、どこから突っ込めばいいのかすらわかりません。

 とうてい理解できない静だったのですが、それ以外には為す術もなかったため、「この姿」でその「スタートアップ」っていうのを始めることになりますー。


キャラの紹介

稲葉 祥平(いなば・しょうへい)

主人公(静雄)の学科、つまり経営学科の後輩。いつかソシャゲの運営で大金持ちになるのが野望。
とはいえ、決してソシャゲを嘲笑っているわけではなく、むしろ自分が好きすぎるから半端なことはしたくない、と強く思っている。
ソシャゲの周回や徹夜のイベント走りはもちろん、激ムズなステージのノーミスクリアもやってのけるガチのゲーマー。無(理のない)課金が大好き。ゲームならなんでも好きだが、駆け引き系のゲームだけはめっぽう弱い。
世界はゲームでできていると信じて疑わず、先輩である静雄にもゲーミフィケーションの素晴らしさをクドいほど喋りまくっている。

(前略)
私、これからどうなるんだろう…
「よっしゃ! ついにSSレア出た!! 人権キャラキタコレ!!!」
「……」
教授を含めた講義室の全員の視線が、いきなり立ち上がった彼に向かって一斉に集まった。
「す、すいませんでした」
それに気づくと、祥平君は速攻に頭を机に埋めてしまう。本人が無意識の中でそう叫んでいたことは間違いなかった。


「ちくしょー…せっかく運が良かったのに……しくしく」
休み時間になっても、となりに座った祥平君は頭もあげずそんなことをぶつぶつ言っていた。
でも、ほんとうによかった。
そのハプニングのおかげで、私の心は助かったような気がしたのだから。