43.懐かしき過去

   ――初めて、雫を抱いた時。 当たり前だけど、私はすごく悩んだし、どうしたらいいのか、本当にわからなかった。 いや。あの時点で、すでに両親からの許可は取っていたわけだけど……。 その、いったい雫にどう接すればいいのか、まったくわからなかったんだ。  以前にも語った通り、雫はすでに私の「元の姿」の存在を知っている。 ...

42.7月になった

 私と秀樹が恋人同士になってから、早くも一ヶ月。  もう周りは、すっかり真夏になっていた。 「7月か……」  久しぶりに廊下の自販機で冷たいコーラーをがぶ飲みしながら、私はそんなことをつぶやく。  もうこんなに時間が過ぎていたんだ。ちょっと信じられない。  まあ、秀樹に「別の姿」がバレて、付き合うことになって、秀樹も無...

41.また公園で

 そうして、私と秀樹が「元の姿」で絆を重ねてから。  また、土曜日が戻ってきた。 「いや~久しぶりだね、ここも」 「……ああ、そうだな」  私と秀樹は、今、「組織」の近くにある、あの公園まで来ていた。お互い、あの時のように「別の姿」の状態である。  まあ、別にここに来なきゃいけない理由なんてないけれど……。あえていうと...

39.巡り会えた、ふたり

 そうやって私たちがいっしょに時間を過ごしていた時、ようやく自分の「端末」に連絡が届いた。 ついに、全ての準備が整ったらしい。 ……どうしよう、私まで緊張してきた。 でも、この瞬間がやってきたことは、ものすごく嬉しい。「じゃ、俺はあそこに行って、『元の姿』に戻ればいいの?」「ああ、もちろん自分もこのまま出発する。こっち...

38.こんなに弱い自分でも

 そうして、私が秀樹の家から「組織」へ戻ると。  自分を待っていたのは、あまりにも突然な事実だった。 「つまり、ひ……橘の『元の姿』が解析された、ということですか?」  私は目の前にいるお父さんにそう聞く。今はお父さんというより、上司と言ったほうが正しいが。 「ああ、時間はかかったが、ようやく解析が終わった、という報告...

37.あなたがいない、非日常

「あ、柾木ちゃん。おはよ」  次の日の朝。  私は予定どおり、久しぶりに学園にやってきた。学園に来るのは、いつも久しぶりなんだけど。  自分って、いつも学園に通えるわけじゃないから、どうしてもこの教室では浮いているという自覚がある。時々、それがとても、とても辛いって思えることもあった。  わかっている。毎日学園に来るの...

36.それぞれの思惑

「えっ、昨日、俺のためにそこまでしてくれたの?」  次の日。  私が昨日、慎治との出来事を話すと、秀樹はずいぶん驚いていた。 「ああ、秀樹さえよければ、別に避けることでもないと思ってな」 「う、うれしいけど、俺、柾木にひどいことさせたのでは……」 「大丈夫だって言ったんだろ?」  そう、これは秀樹のためだけじゃない。あ...

35.少し勇気を出して

「お、お前、ズルいぞ!」 「……あ?」  お姉ちゃんと深く話し合った次の日。  私はいきなりこっちまでやってきた慎治から、だいぶ雑に問い詰めにされた。どうしてこんなことになったのかは、もはや考えるまでもない。 「い、いったいいつから橘さんと付き合ったんだ? 柾木、お前には綾観さんがいるんだろ!」 「ああ、今まで話せなく...

34.「姉妹」の午後

 お姉ちゃんと語り合った次の日。  いつもの通りに出社して、仕事をこなしていた私は、昼ごはんを食べてから事務室でくつろいでいた時に、驚くべきことを耳にする。 「だ、誰だって?」  だって、驚くしかない。  今、私に会うために、なんとお姉ちゃんが、「別の姿」でやってきた、という話なのだから。 「やあ、久しぶりだな。柾木」...

33.姉妹の夜

「それで、私、秀樹と付き合うことになって」 「あら、そう?」  その日の夜。久しぶりにお姉ちゃんと、二人きりになれた日に。  私はようやく、それを打ち明かすことができた。  実は、お姉ちゃんにこんなこと、話すだけでくすぐったいけど……。  それでも、やっぱり、こんな「悩み」を聞いてくれそうな人は、お姉ちゃんしかいない。...