僕が初めて耕平の父親と会ったのは、今から二ヶ月くらい前のことだった。
確か、それはある休日の午後のこと。
なぜかすごく耕平に押されて、あいつの家へ二回目に訪れることになったあの時。
「ああ、耕平の友だちかい」
そこの居間には、少しだけ無口そうで、なぜか儚さを感じさせる男性がいた。
玄関にいる僕にまで届くくらい重厚で、落ちついた声。ソファに座っていたため背の高さまではよくわからなかったが、決して小柄というわけではなかった。かなり背のある耕平のことを考えると、きっとその父親もそれくらいは背があるのだろう。
顔立ちもぎっしりとしており、それでいながらどこか優しい。きっとこの人は耕平やその妹であるこのはにも優しいのだろう。僕は根拠もなく、そんなことを思う。
客観的に見るとどっしりとした、そこにいるだけでぐっと安心感が増す感じの印象だというのに、僕はなぜか、その佇まいに仄かな儚さを感じていた。
……別に細い体を持っているわけでもないのに、どうしてそう感じたのかは未だにわからないけれど。
自分が勝手に抱いていた耕平の父の印象とはかなり異なる、だがなんとなく納得できる、そんな不思議な感じ。
とにかく、どこか印象に残る人だな、というのが僕の初印象だった。
このままじっとしているのは悪いから、僕もなんとか言葉を紡ぎ出す。
「は、初めまして。耕平から話は聞いています」
「こちらこそ、息子からはいろいろ話を聞いてるよ。ヨリも君のことをよく口にしていたしね」
「……なんだよこれ。どうしてこんなたどたどしい流れになってるんだ。お見合いか何かか?」
僕と父親の話を聞いていた耕平は、ひどく面白くないという顔をした。僕の方もそうだけど、耕平のお父さんの方もあまり話が得意ではなかったらしい。
「すまない。あまり面白くない会話だったな。とにかく、うちの耕平をよろしく頼むよ」
「だから、なんで最後まで……」
そうぶつぶつ文句を言う耕平を連れて、僕は二階へと上がっていく。
「えーと、すまん。うちの親父、あんまり面白い人間じゃないんだ」
どうしてか自分の部屋に入った途端、耕平はそう謝ってきた。
「まったく、せっかく息子の友だちが遊びに来たというのに、なんでいつもああいう態度なんだよ」
「……別に悪かったわけでもないだろ」
「そりゃそうだけどさ、面白みの一つもないんじゃないか。息子の親友がやってきたもんだから、もうちょっと喜んでもいいんだろうに」
「お前も面倒くさいやつなんだよな、耕平」
僕がそんなことを口にすると、ヤツは「なんだとー」と怒ってみせた。まあ、親友同士の他愛もないやり取りだったため、その話はそれっきりで終わりとなった。
それが、あんなことになっていたなんて。
僕は本当に、夢でも思いはしなかったんだ。