「はあ、暑い……」
「……そうっスね」
とある8月の夕暮れ頃。
珍しくも良平と刹那は、とあるところに向かうため一緒に行動していた。まだまだ夕焼けは蒸し暑く、どうしても涼しいものが欲しくなってしまう。
「……どうして私たちは、こんなことをしなければならないわけ?」
「まあ……僕の場合、ヒマリさんには敵わないのが理由っスかね」
そんなどうしようもない掛け合いをしながらも、二人は無事、目的地にたどり着く。
ここは、最近の二人にとってあまり縁のなかった、ヒマリの住んでいるマンションだった。
話は昨日に戻る。
「あなたの家に行ってみたら、こんなものが届いてたけど」
そう口にしながら、刹那は手にしていたものをヒマリに渡す。
あまり足を運びたくはなかったが、あの学校にじっといるのも気に食わないし、この古井市に詳しいわけでもなかった刹那は、少し散歩でもするつもりで、ヒマリのマンションの近くまで歩いてきたのだ。
「何? 面白いチラシでも挟んでたわけ?」
「いや、おそらくこれ、あなた宛てね」
封筒には間違いなく、こう書かれていた。
――古井市〇〇丁目〇〇番地、日笠向日葵(ひかさ・ひまわり) 様
「……こう書かれてるけど、これってあなた宛てで合ってるの?」
「本当だ。ヒマリさんの名前、別の書き方になってますね」
「……はあ」
ついに、来るべき時が来てしまったのか。
できる限りバレたくはなかったけれど、こうなった以上、仕方がない。
「まあ、アレは戸籍上の名前……つまり、あたしの本名ってやつね」
「あれ、ヒマリさんって偽名なんですか?」
「あのさ、人のことを犯罪者みたいに言わないでくれる?!」
なぜかムッと来てしまって、ヒマリは声を少し高める。とはいえ、最近知り合ったばかりの紗絵たちが、ヒマリの事情を知らないのは当たり前のことだった。
「だから、知り合いの中ではヒマリで通じてるの。吸血鬼のくせに向日葵とか、恥ずかしくて耐えられないからね」
「……別にどっちでもいいと思うけど」
「いや、あたしにだって似合わない名前って自覚はあるから」
実はそのせいで、ヒマリはあの名前が本名という自覚があまりない。みんなにヒマリと(強引に)呼ばせ続けたため、かなり以前からその事実をほぼ忘れていた。
まあ、それは本当に、どうでもいい話なんだけど。
「どうせあんた、日差しの中でも平気じゃない」
「うっさい」
これは、単に気分の問題なんだから。
以前、雪音にも少しそう言われたことを思い出して、ヒマリは刹那からそっと視線を逸らした。
「……ともかく、これがあたし宛てであるのは確かね。そういやあたしンちに自分宛ての郵便物とか、届くかもしれなかったっけ」
「本当にいい加減ね、あなたは」
「ま、いいんじゃない。そこまで頻繁なわけでもないし」
そんなことを適当に口にしながら、ヒマリは刹那のお方に体を向けた。
「そーゆーことで、あしたもちょっと、うちの郵便受けを見てきてくんない? あとで甘いお菓子でもおごるからさ」
「あんた、こっちのことを子供だと思って……」
「そんなこと言って、あんたも甘いことは人並みに好きでしょ? 以前にちらっと見た限り、あんまり嫌いでもなさそうだったし」
「……うっさい」
そんな言葉と共に、今度は刹那がそっと視線を逸らす。
とにかくこういう事情で、次の日である今日、刹那は(なぜか一緒になった)良平と一緒にヒマリのマンションに来ることになった。
……送られた時にヒマリが良平の胸ぐらをつかんでいたことがとても気になったが、あえて気にしないふりをした。
「今日もなんか来てるわね」
郵便受けの中の封筒を手に取りながら、刹那はそう呟く。
見た限り、それは電気代の請求書だった。
最近はずっと外(学校)で暮らしているヒマリが見ると、きっと「なんかすごくもったいないわね」みたいなことを口にするのだろう。
ちなみにあそこにも、名前はちゃんと「日笠向日葵」と書かれてあった。どうやら、昨日ヒマリが言っていたことは本当らしい。
「でも日笠……あの人って、自分に用事のある人がやってきたらどうするつもりなのかしら」
自分が手にしている封筒を見ながら、刹那は思わずそう呟く。
最近のヒマリは、ほとんど自分の家に戻っていない。あの「健太郎事件」的にはどうしようもないことだったが、ヒマリはだいたい、あの学校で時間を過ごしていた。
……だからこそ、良平たちはヒマリの郵便受けまでお使いにやってきたわけで。
今まではなんとかなったものの、これからどうなるかなんて、誰にもわからない。
良平がぼんやりと、そんなことを思っていた時だった。
「そこの君たち」
「え、えっ?」
誰かに呼ばれた良平たちは、そこに振り向く。
「そうそう、君たちのことだよ。君たち、ヒマリちゃんの知り合いだろう?」
そこには、一人の男が立っていた。
ざっと見て、年齢は20代後半くらいなんだろうか。洒落た柄の青いTシャツにジーンズだという、ずいぶんカジュアルな服を着ている。
体はかなりぎっしりしているというのに爽やかそうで、少し不思議な印象を持つ人だった。
「ひ、ヒマリさんっスか?」
良平と刹那は、しばらくどう答えたらいいのか迷う。
ああいう聞かれ方をしたわけだから、きっとヒマリの知り合いではあるだろうけど、どんな知り合いなのかはよくわからなかったからだ。
「ああ、ヒマリちゃんが今、どこにいるのかを知りたいんだ」
「……えっと、日笠……あの人のお兄さんですか? いや、ひょっとしてお父さん?」
刹那が恐る恐るとそう聞くと、良平もうんうんと頷く。
普通ならここまで若い人に「お父さん」とは決して言わないはずである。だが、ヒマリが「普通」じゃないことを知っている刹那は、自分の話しているのが無茶だと思いつつも、思い切ってそう口にしたのだった。
それを聞いた相手はしばらくぼっとしてから、くすくすと笑いながらそう答えた。
「いやいや、そんなわけではなく……そういや、紹介がまだだったな」
男は良平たちをじっと見つめながら、こんなことを口にする。
「僕は日笠達郎(ひかさ・たつろう)。ヒマリのお祖父さんさ。うちのヒマリが、いつもお世話になってるね」
「……えっ?」
「マジっすか?!」
刹那と良平は、思わず目を合わせる。
男――達郎は、苦笑いしつつそんな二人を見つめていた。
「つまり、達郎さんはヒマリさんに会いに、ここまで来られたって話っスね」
それから達郎をヒマリに会わせることにした良平たちは、学園へと続く大通りを歩いていた。
なんとか話を続けようとする良平とは逆に、刹那はただ、じっと歩くだけである。二人の性格からすると、ごく自然な結果だった。
「ああ、そうさ。最近はあまり、ヒマリちゃんに会う機会もなかったからね」
「まあ、ヒマリさんにもいろいろあったっスよ。詳しいことはまた後で聞くでしょうけれど――」
二人がそんな、他愛のない話を交わしていた時、向こうからどこか、聞き慣れた声が聞こえてきた。
……なぜか、その声は聞き慣れていない声にものすごく押されているようだったが。
「ひ、ヒマリちゃんだよね? 以前佐渡(さわたり)中学に通ってた、あの日笠ヒマリちゃん!」
「そ、そう、ひ、久しぶり……ね」
「わたしのこと、わかる? 3年の頃、クラスメイトだった山辺(やまべ)なんだけど」
「あ、ああ……たぶん覚えてる。だから……本当に、久しぶりね」
……向こうのヒマリは、だいたい20代後半、もしくは30歳くらいだと思われる女性に絡まれていた。
「よかった、やっぱりあのヒマリちゃんだったんだ! 実はわたし、以前に偶然ヒマリちゃんのこと、Youtubeで見ちゃったのよ。それからずっと気になってた」
「そ、そう? ぜ、全然知らなかったわ。まあ、収益化もつい最近、通ったばっかだし……ね」
「でも本当に久しぶりじゃない、ヒマリちゃん! 元気だった? 卒業してからすぐ引っ越しとか、みんなびっくりしてたよ?」
「ま、まあ……そうでしょうね」
おかしい。
いつも堂々としているヒマリが、今はおかしいくらい押されている。
「こうしてまた出会うことになるとか、まったく考えてなかったな~~。偶然ってすごいね。ヒマリちゃんもあの頃のままだし。夢みたいだなぁ」
「そ、それもそうでしょうね。あたしもび、びっくりしたし……」
「こうしてみると不思議ねぇ。ヒマリちゃんって本当に変わってないから、わたし、驚いちゃった。中学の頃もここまで童顔だったっけ? 秘訣とか、あったら教えてよ」
「そ、そんなもん、あるわけないじゃない。そ、それはともかくとして、詳しいことはまたあとで――」
「いや、ヒマリちゃんじゃないか」
「……へ?」
そんな二人に近づいて、達郎は何もなかったという顔で気軽に話しかける。
そこに振り向いたヒマリは、文字通り目が点になってしまった。
「……」
そして、後ろにいる良平たちに気づいたヒマリは、そのまま体が固まる。
「あれ? この人って誰なの? まさか、ヒマリちゃんのお兄さん?」
何も知らない「ヒマリの元クラスメイト」だけ、そんなことを口にしながら目をキョロキョロしているだけだった。
「じ、祖父さん?!」
元クラスメイトとなんとか話をつけ、「じゃ、用事が終わったらまた会いに来るね」と別れた後。
良平たちを目にしたヒマリは、思わずそう驚く。まさかあの二人が、祖父さんといっしょにいるとは思いもしなかったからだ。
「いや、元気だったかい? ヒマリちゃん」
「そんなことどうでもいいでしょ! なんであんた……祖父さんが、あいつらと一緒にいるのよ」
「いやぁ、さすがにどうでもいいって言われると凹むなぁ……」
「……ヒマリさん、いつにも増して不機嫌っスね」
祖父と孫の感動的な再会を目にした良平は、そんな話とともに後ずさる。刹那はもはや呆れたような顔で、そんな二人に冷ややかな視線を落としていた。
「それはそうとしてもね、ヒマリちゃん。せっかく友だちと感動的な再会を果たしたというのに、その言い草はちょっと――」
「ああもう、どこまで見てたのよ、この変態祖父さんは!!」
「……変態?」
良平たちがそう首を傾げていると、ヒマリは急に、そんな二人をじっと睨みつけてくる。悔しくて悔しくて、この気持ちをどうにかしたいという顔だった。
「お、落ちついてくださいよ、ヒマリさん! 僕らは無実です!!」
「じゃ、早く答えなさい。なんであんたたちが、うちの女たらし祖父さんと知り合いなのか!」
「や、やめてくださいよ! マジで殺す気まんまんじゃないっスか~~!!」
しばらくしてから。
「――ということで、達郎さんと知り合うことになったんですよ」
「ああ……そゆこと」
なぜかいつもみんなと集まることになってしまった4階のとある教室(ちなみに「3-C」というプレートがついている)。
あの双子を除いた関係者みんながいるこの教室で、良平は冷や汗をかきながら、今までの出来事を口にした。
「っていうか、こっちは本当にびっくりしましたからね。まさかヒマリさんのお祖父さんが、ここまで若いとは……」
「まあ、それはそうでしょうね」
そう言いながら、ヒマリはそっと視線を逸らす。良平からすると、そう思うのが当たり前だった。
……いや、少しだけ違う。
はっきり言って、これは「誰から見ても」きっとおかしい。
「ぶっちゃけ、吸血鬼の祖父さんが普通の人間であるわけないじゃない」
「それは……あなたの言う通りなんだけどね」
「あっもう、これも全部、祖父さんのせいなんだからね。なんで連絡もなしでいきなりやってくるのよ。こっちにも事情ってものがあるのに」
ヒマリがそうブツブツすると、達郎はただ笑ってみせるだけだった。その態度は、いつになってもまったく変わることがない。
「そもそも、わざわざここまでやってきた用件って何?」
「ああ、ヒマリちゃんは今頃どうしてるのかな、が気になってね」
「……そんなこと、わざわざここまで来なくてもわかるんでしょ」
「そうでもないさ。愛する孫の姿を見てみたいというのは、祖父として自然だろう?」
「ふーん」
いつものように、ヒマリは冷たくあしらう。
この祖父さんは、本当にヒマリが子供の頃からまったく変わっていなかった。
……それこそ、中身どころか姿まで。
「いつも冷たいなぁ、ヒマリちゃんは」
こちらがここまで塩対応だというのに、達郎の笑顔はまったく崩れない。
この祖父の意地悪なところは、そんなヒマリの心を察した上でこんなことを口にすることだった。
「祖父さんこそいつもそうでしょ。人のこと、これっぽっちも考えないし」
「違うさ。僕はどうしても、今、この時期にヒマリと会いたかったんだよ」
「なにが『どうして』ってわけ?」
「だって、このままじゃヒマリは何も言わずに、そろそろこの街を去ってゆくつもりなんだろう?」
「え――?!」
「ま、マジっすか?!」
「……っ」
達郎のその話に、雪音を除いた周りの人たちが一斉に驚く。いつも飄々としているあの羽月すら、その話を聞いて、ヒマリのいるところをじっと見つめていた。
――祖父さん、よくも孫の弱点をこんな大勢のいるところで突いてきたわね。
さすがにヒマリも、今、祖父さんがあんなことを言ってくるとは考えなかった。
「ど、どうしてでしょうか? ヒマリさん」
「いや、そこまで驚いた顔で見つめられても、ね」
ついにこの日が来たか。
祖父さんの余計なお世話に頭を抱えながら、ヒマリは心の中でため息をつく。
はっきり言って、こういう空気は非常に苦手だった。まだ紗絵たちとは知って間もないけれど、どうしてもヒマリとしてはアレな気持ちになってしまう。
「ま、祖父さんの言ったとおり。いつかはここを去るつもりだったし、間違った話じゃない」
「で、でも、ヒマリさんは確か、この街のことが好きだったんじゃ――」
「当たり前じゃない。中学を卒業してからはずっとここで暮らしてたわけだから」
紗絵の話に、ヒマリはそっと視線を逸らす。
ヒマリがこの古井市にやってきたのは、中学を卒業して間もない時だった。
そもそも、別に初めから好きでここを選んだわけじゃない。場所なんて、ぶっちゃけどこでもよかった。
――ただ、自分のことを誰も知らないところであるのなら。
引っ越すところを決める時、ヒマリが考えたのはそれだけだった。
「えっ、じゃ、ひょっとしてあの時、ヒマリさんがここに引っ越したのも……?」
「そう、あんたとしては頭が切れるんじゃない、良平」
今まで雪音しか知らなかった自分の事情を、ヒマリは初めて自分から口にした。
「あんたたちも祖父さんを目にした今ならわかるんでしょ。吸血鬼という生き物は、普通の人間とはやっぱり違うのよ」
「えっと、つまり歳を取らない、ってことでしょうか?」
「まあ、大まかに言うとそうなるわね。でも理由はそれだけじゃない」
「……どういうこと?」
「吸血鬼の運動神経は、普通の人間を軽く超えるものだからよ」
刹那の話に、ヒマリはそう答える。まさか自分から、雪音じゃない人にこんな事情をバラすとは思っても見なかった。
「中学までならまだいいわ。運動部からの勧誘がちょっと多めに入ってきたり、『ヒマリちゃんは羨ましいな~』なんて話を聞くだけで済むから。でも、やっぱりそれ以上になると話が違う。あたしが普通とは違う人間だというのが、周りにバレてしまうわけ」
「……まあ、周りより何回りもピンピンしてるハズですからね」
「あんた、今あたしに向けてひどい毒吐いてない?」
良平の話にムッとするヒマリだったが、その話はあながち間違っていなかった。
もちろん、高校までならまだなんとか誤魔化しようがあるかもしれない。どれだけ体力があっても、どれだけ運動部負けの人間離れな運動神経を披露しても、「あたしたちって、まだ若いんじゃない」なんてことで済むかもしれない。
でも、どれだけ足掻いたって、ヒマリは普通の人とは違う。
吸血鬼という生き物は、普通の人間より遥かに長い時間を生きる。もちろんその体だって、普通の人間とは違うようにできていた。
普通の人間ところか、「普通」のアスリートにも決して引けを取らない、人間離れな運動神経。
おそらく何十年は十代のような姿を持つことができる、これまた人間離れな体。
……何百年も生き抜かなければならない、吸血鬼ならではの長い寿命。
普通の人間と紛れて暮らすには、ヒマリという存在はあまりにも特殊すぎた。
「つまり、そろそろ古井を去るというのはそういう意味なんっスね」
ヒマリから事情を聞き終わった良平は、静かにそう頷く。
「まあね。ぶっちゃけ気持ち悪いんじゃない。ずっと歳を取らない人間がそばにいたらさ」
「でも、そのせいで大切な居場所を無くすのは、やはり悲しいです」
「これだけは仕方ないわね。あたしもあんまり、周りに迷惑とかかけたくないし」
これはすでに、ずっと前から決めていたことだった。
もちろん、ヒマリは今の古井市が好きだし、思い入れもたくさんある。自分みたいな「よそ者」を十年も受け入れてくれたのは、他でもないこの古井なんだからだ。
でも、やはり自分は「普通」の人間とは違う。
今まではなんとか「普通」のフリをしていられたが、もうそろそろ、ボロが出てきてもおかしくない時期だった。
「……次の移住地は考えているわけ?」
「いや、まだ何も。これから考えなきゃダメだけど……こんなことになっちゃったし」
「やはり、ヒマリさんはここを去りたくないんですね」
「まあ、進んでここを出ていく気持ちじゃないのは確かね」
この古井に住んでいた長い時間の中で、一度もそんなことを思わなかったとしたら嘘になる。ここでヒマリは雪音と出会ったし、真尋とも知り合った。ある意味、生まれ育ったところよりも長い時間をこの古井で過ごしている。
そんな思い出を何もかも捨てて、ここから出ていくのはもちろん寂しい。いや、寂しいことに決まっている。
でも、やっぱりヒマリは「普通」じゃないから。
……だから、これしか選べる道がなかった。
「でも、古井からヒマリさんがいなくなると寂しくなるっスね……いや、今までもヒマリさんのこと、まったく気づかなかったからいっか」
「……あんた、一回地に埋もれてみる?」
「や、やめて欲しいっス! 血まみれとか勘弁ですよ、まったく!」
「ど、どっちの『ち』のことでしょう……」
二人のやりとりを見ながら首を傾げている紗絵に、ヒマリはまた頭を抱えたくなってしまった。
そう、「こんなこと」になっていなかったら。
そうだったら、何の迷いもなく古井を去っていけたはずなのに。
「でも、そう考えるとあなたって凄いんじゃない。よくも町内警察とか、そういう目立つことができたわね」
「……なによ、悪い?」
「あなた、自分が今まで口にしたことと、やってきた行動がチグハグだというのは気づいてるの?」
「そ、そういう性格だから仕方ないんじゃない」
「ふふっ、ヒマリちゃんは本当に、目立ってしまう性格なのね」
「雪音、あんたも黙っててよ」
本当に、なんでこんなやつらと知り合うことになったんだろう。
それを考えると、ヒマリはどうしても悔しくなって仕方がなかった。
「まあ、きっとヒマリも困ってるはずだよ。ああいう事情もあるから」
さっきからみんなの話をニコニコしながら聞いていた達郎が、ようやく口を開けた。
「……祖父さん、他人事だと思って」
「そんなわけないだろう。僕だって、その気持ちは誰よりもよくわかってるつもりだからな」
「あたしにはどうも、そうは聞こえないんだけどね」
「そうは言わせないよ、ヒマリちゃん。だからいつも僕は、ヒマリに『眷属を作りなさい』と言ってるんだろう?」
「……えっ?」
「け、けんぞく?!」
その非現実的な一言に、ヒマリと雪音を除いたみんなが目を丸くする。
まるでファンタジーの中の出来事が、現実に起こってしまったような反応だった。
――ああもう、やってくれたわね、このバカ祖父さんは……。
となりでクスクスと笑っている雪音を横目にしながら、ヒマリは思わず額に手を当てた。