「ほ、ほんと? 名前で呼んでもいいの?!」
「だからそれで良いって…」
別に、心を許したからではない。見知らぬところで心細そうだから、こうしただけだ。
だけど、なんでこいつはここまで喜ぶのだろう。
「じゃ、これからはそういうことで。…秀樹」
「あ、ありがと、柾木!!」
ここまでぱっと笑顔を浮かべて。
どうしてこれが、ここまで嬉しいのだろう。
あんなに長いツインテールだったのに、すっかり短くなってしまった髪の毛。たしか子供には見えなくなったが、少々ごつく感じる顔立ち。元の姿を思い出せないくらいに大きくなった身体。家で黒ロリとか着ている人間だとは考えられない、ワイシャツやネクタイがよく似合うこの「男」の姿。
鏡の向こうの自分は、なぜか少し滑稽に思えた。顔も体もぎっしりとなってしまって、「元」の姿とは少し違って見える。
鏡の中にいる自分は、私の思っている通りに腕を動かし、髪の毛をいじる。もうなれているつもりだったのに、今はその「自分」が、どこか遠く感じられた。
まだ、私はそこから抜け出していない。
「自分を裏切った」という感情から。
恥ずかしい。
はずかしいはずかしいはずかしい。
いちおうデートだというのに、白いシャツにジーンズだけだなんて。せっかくテーマパークに来るのに、こんなダサい服を着ていくやつが世の中のどこにいるんだ。
どれだけ今が「別の姿」だとは言え、こんな姿で大勢の中にいるのは罰ゲームのようだ。せめてもっといい感じの私服があったらよかったのに。着る機会なんてないと思っていたから、こんな野暮なものしか残ってなかった。
別に、秀樹のことを考えたわけじゃない。
これは私が恥ずかしいから嫌なわけで、決してそういうわけではー