その他のいろんなセリフなど。
「そっか、綾観さんにそんな事情が……」
「その意味では、俺がほんとうの男だったらよかったかもな」
「え? 今の柾木って十分男やってるのでは?」
「まあ、機能面ではそうだが、その、実は違うわけで……」
「うーん、俺も男だがよくわかんないや。いったい何が『ほんとう』の男だろうねぇ」
「……」
別にほんとうの男になりたいとか、そういうわけじゃない。雫には申し訳ないけど、やっぱり私は女の子でいたかった。
でも、ふと考え込んでしまう。
わたしは、ちゃんとあなたの役に立っていたのだろうか。
「でもさ、柾木は俺に初めてあたま撫でられたとき、どうだったんだ?」
「恥ずかしかったけど」
「それだけ?」
「……それだけ」
「柾木、ホラー映画見に行こうよーわたしがおごるから」
「いや、だからなんでそこまでホラーを見せたがるんだ」
「うん? ほら、アレあるんじゃない。吊り橋効果」
「……そうだとわかってるのに、わざわざ自分から狙いに行くのか?」
「もちろん。もっと好きになれるなら、使えるものはぜ~んぶ使わなきゃ損だし」
「へー姿が変わるとお菓子作りにまで影響されるんだ」
「今は慣れたから平気だけど、初めの頃には感覚がものすごく狂ってた」
「まあ、そうなるかもな。でも今はこんなに美味しく作れるし、慣れってすげー」
「でも得したと思ったこともあった。元の姿よりお菓子がいっぱい食べられる時とか」
「へ?」
「あと、お菓子が大きく作られた時。もちろん小さいのも捨てがたいけど……」
「ちょ、ちょっと。柾木さん?」
秀樹はまるで、初めていっしょに巨大パフェを食べに行った時のような表情で私のことを見ていた。
「あの時は本当に焦った。忙しいから仕方なく別の姿のままで親戚の家に言ったら、子供の頃に世話してた従兄弟といきなり出くわしたもの」
「まあ、そりゃびっくりところじゃないな。自分は成長したおねえちゃんが見られると思ったのに、そこにいたのはちょっとゴツい男だったと」
「どうにかして誤解は解けたけど、その時は恥ずかしくて死にたいと思ってた」
「つまり、柾木の従兄弟から見ると、子供の頃に密かに片思いしてた『ツインテールのかわいい乙女なおねえちゃん』が実は男だったかもしれない、になるわけか」
「だ、だから、実は違うって、秀樹も知ってるんじゃない」
「うわ、黒い歴史だなぁ…もしそうだったら、だけど」
「だから」
「柾木! レゲーしようよ、レゲー!」
「なんだそれは。音符ちゃん? 古いゲームなのか」
「そそ、これがなかなか面白いんだ。一緒にどう?」
「まあ、暇だからいいが……」
「ご、ごほん、ごほん!」
「柾木、大丈夫? 声枯れてない?」
「それは聞けばわかるだろ」
「まあ、大変なのは見てたからわかってるけどね」
「で、どうだった?」
「……くやしい」
「えっ?」
「なんかくやしい。元の姿だったらもっと上手くできるのに」
「まあ、そうだろうね……でも意外だな」
「何かだ?」
「柾木がこういうゲームにのめり込んでいること」
「ぐへへ柾木さん、今何のパンツ履いてるー?」
「死にたい?!」
「ぐへへ柾木さん、今の姿では何のパンツ履いてるー?」
「お前、しっかりしろ、正気か?!」
「えっ? これ、そこまでびっくりすることなの?」
「頼むから、男が男のパンツを気にする、その、アレなことはやめてくれ」
「でも、柾木は実は女の子だし。俺も今はそうだしな」
「それはどうでもいいから、その、せめて普通の性癖でいてほしい」
「柾木ーお姫様抱っこしてあげようか?」
「べつにいいから、そんなの」
「じゃ、代わりに俺をお姫様抱っこしてあげるのはどう?」
「いったい何がやりたいの、あんたは」
「じゃーん、ほらほら柾木、この水着、どう? 似合ってる?」
雫はそう言いながら、私のほうを向いた。
いや、その、雫のビキニってすごく似合ってるし、とてもいいと思うけど。
「いったいなんで、職場(ここ)で水着を披露してるんだ?」
「だって柾木、今度も海に行きそうにないし」
「いや、でもこれはあんまり……」
どうしよう、あたまがクラクラする。
室内、それも私の事務室でビキニって、想像以上に刺激すぎて、それをスタイルのいい雫がやっちゃったら、その……
「ここのおじさんたちって、お昼になったら食堂までダッシュしないの?」
「いったいそれはどこの学園生だ」
そもそも、ここで働いている大人たちにはまともに食事する時間もあまりない。食堂ところか、サンドイッチなどの簡単な食べ物、もしくは食事代わりのドリンクなどで済ませるのがほとんどだ。
もちろん、私もそう。
まあ、慎治みたいな学園生たち一部は、本当にダッシュしたりするんだけど……。