生まれてから内陸ばかり住んでいた女の子は、
その時、ほぼ初めて大きな海に出会ったー。
どこまでもつづく、無限の青。
空と海の色が、まるでひとつのように混ざり合っていた。
「きれい……」
声も出ないくらい圧倒的なその風景に、女の子はこころの中でそうつぶやく。
そして、そこで女の子が見たのは、
まっしろなヨットを漕ぎ出す、名前も知らない凛々しい女性。
その人をはじめて見つけた時から、
女の子と「先輩」との、青に惹かれ、海に憧れ、そして「青と海」に生かされる物語が幕を開くー
「海洋部」は存在しない。
転校した女の子が、最初に聞いたのはそんな言葉だった。
あの人と一緒に、海を駆け回りたい。
そう考えていた女の子に、その話はあまりにも突発だった。
諦めきれず、あっちこっちを探しまくる女の子。
やがてたどり着いたところは、「海洋研究部」と乱暴に書かれた、寂れた部室。
だが、そこにいた「先輩」こと彼女は、女の子に冷たくこう言い放つ。
「ここは部じゃない。すでに廃部されたところだ。だから新入部員なんていらない。ほしくない」と。
後になって、事情を聞かされる女の子。
「先輩」が持つ、他の人には理解されがたい暗い過去。もう存在しない「海洋部」が未だに部室を持っている理由。
でも、女の子はやっぱり先輩といっしょにいたかった。
ある日、激しい雨の中だというのに、先輩はまた海に行ってしまう。
それを聞いた女の子は、そのままでは到底いられなかった。
ー過去の出来事。
先輩だけではなく、女の子にも、他の人に言えない過去があったのだったー
※先輩 (瀬尾 拓也)せお・たくや
女の子よりひとつ年上である、学校の先輩。
あまり他の人といっしょにおらず、いつも距離をおいている。
女性ながらワイルドなところが目立ち、背も高く運動神経も優れている。髪も短く、遠くから見ると男だと思えないわけでもない。
授業には出ず、いつも「自分だけの」部室や海でヨットをいじったり、青に溶け込む。
やや不安定なくらい大きな胸が目立つ。高く透き通る声を持っているが、本人は(胸とともに)それを非常に嫌がっている。