ガールズトーク

「ん……最近はどちらかというと、数学の方が大変かな」
 私に胸を弄られながら、雫はため息を漏らしつつ、そう答えた。
「雫って確か、数学は得意な方だろ」
「そうだけど~……はぁ、方程式とか微積分とか、全部難しいんだもの」
「そりゃそうだろ。数学ってそういうものだし」
「はぁ……ん……柾木って、今日は意地悪じゃない?」
 そう拗ねたように口にする雫なんだけど、私に触られた乳首は驚くほどツンと勃っている。
 あんなこと口にしながら、実はすごく気持ちいいんだ。
「うぅん……柾木、ずっとわたしの胸ばかり攻めないで、そろそろキスしてよ」
「そこまで欲しいのか?」
「うん。わたしたち、恋人同士だもの」
 雫はそこまで言ってから、こっちに首を傾げてきてキスをせがむ。
 まあ、仕方ないか。
 私はそのかわいい唇に、優しく口づけた。
「わたしさ、今日はいろいろ溜まってるから、いっぱい喜ばせてね」
「かしこまりました」
「ふふ、柾木のこと、大好き」
 それは、恋人ところか、いちばんの親友に捧げる言葉。
 私は雫のその言葉を、勝手にそう解釈していた。

「ほんと? わたし、かわいい?」
 私のペニスを優しくしごきながら、雫は上目遣いでそう聞いてきた。
「ああ、こんにかわいい彼女がいて、俺も幸せだよ」
「ふふっ、そうでしょ~」
 気のせいなんだろうか。さっきより、雫の指使いがもっといやらしくなった気がする。
「ふふっ、柾木といっしょにいると、お気に入りのスイーツが増えるから好き」
「……それは、よかったな」
「でも、今は世の中のどんなスイーツよりも、これがいちばん好きだな」
 そう言いながら、雫は私のペニスを扱いていた指に力を入れる。
 雫のそのセリフに息が詰まってるというのに、なぜか、下半身の方はビリビリと震えていた。
「男の精液、汚くて不味くて大嫌いだけど、柾木のは好き」
「そう、か」
「うん、生クリームみたいで」
 胸が苦しくて、まともに呼吸ができない。
 だというのに、下半身の方のペニスは、そのセリフにおかしいほど強く反応していた。
「そういうわけだから……れろ、いっぱい出してね?」
 こちらを上目遣いで見つめながら、雫は甘い声でそう話しかける。
 私は、……どう答えたらいいのかわからず、さらにペニスを膨らませた。

「ふふっ、今夜もこうして繋がったね、わたしたち」
 挿入が完全に終わると、雫はそんなことを私の耳にささやく。
 ……その吐息が耳元に届くこそばゆい感覚に、私のペニスはより一層太くなった。
 雫はこうして、抱き合ったまま果てるのが好きらしい。
 そういう、ロマンチックなところは本当に雫らしかった。
 私も、こんな体位は嫌いじゃない。
 雫の暖かさや甘やかな匂いを、存分に味わえるから。
「わたし、ちゃんと感じてるんだ。柾木のおちんちん、わたしの中にちゃんとあるよ」
「……ああ」
「太くて、逞しくて……こんなモノをわたしだけ独り占めできるだなんて、贅沢だよね」
 それは、むしろこちらの方のセリフだった。
 誰も知らない雫のありのままの姿を、自分一人で独占できるだなんて、あまりにも恐れ多い。

「ん……わたしたちの子供って、はぁ……どうなんだろうね?」
「……それを、こんな状況で聞くのか」
 私は急に、息が詰まることを感じた。
 確かに、今、私たちがやってることは恋人ごっこみたいなものだけど、それでも、こうして突かれている時に、そんなことを聞いてくるのは――
 ――やっぱり、雫はずるい。
 なぜか私は、心がぎゅっと掴まれるような、よくわからない気持ちになった。
「だって、はぁ……わたしたち、このままじゃ結婚して、子供も作るんでしょ?」
「そりゃ、そうだろうが」
 まるでクラスメイトとお喋りを交わす感覚で、雫はそんなことを話しかけてくる。
 ……きっと、雫もわかってはいるんだろう。
 私たちは婚約者同士だけど、決してそこにはたどり着けないということを。
「ふふっ、男の子だったら柾木にそっくりだよね。ん……女の子の場合は、どうなのかな」
「そこまで、子供が……っ、はぁ……欲しいのか?」
「うん、柾木とわたしの愛の結晶みたいな感じだから」
 雫の口調は、いつもと変わらない。今は二人とも腰を振っているせいか、少し息切れしてるのを除くと、普段の様子とほとんど同じだ。
 でも、私にはわかってしまう。
 今の雫は、それがただの夢語りだということを知りながら、そんなことを口にしてるんだ。
「そう気軽には言うが、赤ちゃんを生むのは……くっ……大変だろ」
「だよね。でも、柾木といっしょならきっと、なんとかなるよ」
「本当に無謀だな、雫は」
「ふふっ、褒めてくれてるんだよね?」
 ここからは見えない顔で、雫はそう微笑む。
 ……そんな未来が、あったかもしれない。
 もし、私が「別の姿」で生まれて、雫と出会うことがあったならば。
 でも、果たしてそれは可能だったのだろうか?
 私と雫が出会えたのは、このどうしようもない不条理じゃないと成立しなかったのではないか?
 それを考えると、なぜか苦笑いが浮かんでくる。
 結局、私と雫はこうでしか知り合えない運命だったんだ。
 自分みたいなただの黒ロリ好きのツインテが、雫みたいなキラキラした女の子と「普通に」仲良くなれるわけなんかないから。
 私と雫は、初めから住む世界が違うんだ。
 だから、きっと私たちがこうして出会う道は、これしか存在できない。