棒読みな罵り

※ここから先は、18歳以下の方に不適切な表現があります
※このエピソードは、本編完結後(エピローグの前)の時間軸となります

「はぁ……」
 その日も、私は「組織」の事務室で秀樹と体を交わしてから、帰りを見送った。
 いつものことながら、えっちをした後はどこか照れくさい気持ちになる。
 ……本能に従いすぎたせいなのだろうか。
 もちろん、それも自分の一つであることは間違いないが、照れくさいのは照れくさいからしょうがない。

 そんなことを一人で思っていた時だった。
「あれ?」
 あるものを目にした私は、思わず、「別の姿」で元の口調を口走ってしまう。
 視線が止まったのは、さっきまで秀樹と絡んでいた自分のベッド。
 そこの上にぽつんと置かれてあるのは、今の私には意味のない、女物のパンツだった。
 ……っていうか、これ、さっきまで秀樹の履いていたあのパンツに違いない。
 さっき、あれを初めて目にした時、思わず「正気か?」と聞き返してしまったくらい、ひらひらのレースのついたピンク色の「女性らしい」パンツ。
 あの時、秀樹は「だって、柾木が喜ぶかも~と思って」なんてことを言ってたけど……。どうやら恥ずかしいからって、行為が終わってからはわざわざ普通のパンツに着替えて出ていったようだった。
 恥ずかしいのに、なんで自分からああいう大人びた下着を用意したんだろうって、私もずっと気にしてたけど……。
 まあ、さすがにこのままじゃこっちまで照れちゃうし、これは私の方から片づけておいた方がいいかな。

 そう思って、それを手に取ったところまではいいものの。
「……バカな」
 私は、思わずそうつぶやいてしまう。
 ついさっき、あまりにも破廉恥な考えが頭を過ぎ去ったからだ。
 どうして、私は今、この「別の姿」で、こんな女物のパンツを身に着けてみたいと思っているのだろう。
 自分がこんなくだらないものに好奇心を持つ人間だったとは、今まで思いもしなかった。
 確かに、もうここに来る人はいない。秀樹もさっき出ていったばかりだから、しばらくは顔を見せないのだろう。
 でも、やっぱりこれは抵抗感がある。なにせ、どんな有様になるのかが目に見えている。
 なのに、それを思うだけで、私の心は嫌になるほど激しく跳ねていた。
 まるで、未知なる感覚を想像し、ワクワクしているような不思議な気持ち。
 もちろん、こんな考えなど、あまりにもけしからんとは自分も思っているのだが――
 どうしよう、このふざけた考えを振り払うことができない。今の自分って、何か変な魔法にでもかかったみたいだ。
 こんなの、常識的にはとてもできない思いつきだというのに。
 ……やって、みようかな。
「本当に、バカみたいだな」
 魔が差したのだろうか。
 なぜか今の自分は、こんな独り言を呟きながらも、真剣にそんなことを考えていた。

「……はぁ」
 気がつくと。
 私の手は勝手に動き、こうして女物のパンツを「別の姿」の自分に履かせていた。
 いや、さすがにサイズが合うわけないから、どうにかして腰にかけた、と言った方が正しいけど。
「アホか……」
 こうして実際に身につけてみると、考えていたよりもずっと見苦しい有様だ。
 ……なぜか、足の毛がいつもより目立っている気がするし。
 それも当たり前だ。今の私は、あくまで「別の姿」なんだから。
 こんなふりふりの下着、似合わないところか、不審者扱いされることに決まっている。
 そもそも、どうしても「履く」ことはできなかったから、こうやって「身につけている」わけだし。
 まあ、昔の童顔だった「別の姿」の自分だったら、女物のパンツを履いた男の姿だとしても、なんとか見れたかもしれない。なんなら実際に履いたまま、学園へ行ったこともある。思い出したくもない記憶だが。
 今の――「男らしい」体つきの私に、こんなピンクな下着など、似合うはずがないんだ。
 あまりにもピッチリだから、今の自分には重苦しく感じてしまうし――

 その時。
 ドカン!
 いきなり音が聞こえてきたため、私は思わず、そのまま後ろへと転んでしまった。自然に、床に尻もちをつくような姿勢になってしまう。
 そして、その音の正体は――
「ごめん! 置き忘れてたものがあって――あ」
「……っ」
 まるで図っていたようなタイミングで、秀樹がドアの向こうから勢いよく入ってきた。そのまま、「こんな姿」になっている私と目が合う。
 バレて、しまった。
 秀樹のあのえっちな下着を、こんな「別の姿」でこっそりと身に着けているところを、今、本人の前で見られてしまったんだ。
 それも、急に入ってきた秀樹にびっくりしたせいで、尻もちをついてしまったという格好を。
 ……ふと、股間に血が集まってくることを感じる。それがどういう意味なのか、考えるまでもなかった。
「あれ、柾木?」
「……」
 瞬く間に、自分の股間――ペニスは、勢いよく秀樹の目の前で雄々しく勃つ。
 確かに、自分の体は本能に従っただけかもしれないが――これは、あまりにも情けない。
 我ながら、穴でもあれば入りたいくらいだった。
「え、えっと」
「……」
 秀樹の顔を見る勇気なんてなかったから、私はそっと、頭を下げる。
 今までも秀樹とはえっちなことをあれこれやってきたはずだけど、さすがにこれはかなり気まずかった。
 今の「別の姿」の私が女物、それもフリフリのついたやつを身に着けてるだなんて、完全に変態そのものじゃないか。
 ……それも、さっきまでこの下着、秀樹がつけてたものだし。
 いや、それ以前に、今の私、こんな状況なのに見事に勃起してるわけで……。
 合わせる顔がないって言葉は、正しく今のためにあるものだったんだな、と私は痛感する。

「ごめん」
 ここで言い訳なんかしても意味がないため、私はすぐ、そうやって謝った。
 こんな無様な姿で謝れても伝われそうにないけど、今はやはり、謝るしかない。
「言い訳なんかしない。思う存分罵ってくれ。黙って聞くから」
「……へ?」
 私の謝罪に、秀樹は驚いたような顔をする。
 ……あれ、どうしたんだろう?
 自分って、なんか変なことでも口走ったのかな?

「えっと」
「……」
 それっきりで、話はしばらく途切れた。
 こんな状況、きっと誰だって戸惑うし、返事に困るのも当たり前だろう。
 私が一人で、そんなことを考え込んでいた時だった。
「つまりに、これはそういうプレイ……なんだよね?」
 しばらく返事を選んでいるような顔をしていた秀樹は、こちらに向けてそう聞いてきた。
 ……プレイ?
 今の秀樹って、何を話してるんだろう?
「お、俺にはよくわかんないけどさ、つまり、罵られて?興奮するというアレだよね」
 へ?
 罵られて興奮とか、意味がよくわからない。
 ――ひょっとして、今の秀樹って誤解してる?
 さっきのあの話を、「そういうプレイがしたい」とか、そう受け取ったのだろうか?
「そ、そんなんじゃ……」
「俺、頑張るよ。う、うまく罵る自信はないけど、柾木のために頑張るから」
「い、いや、だから」
 だけど、止めることはできなかった。
 こんなみじめな姿を見せてるくせに、自分に偉そうなこと、言えるわけがない。
 そもそも、こんな姿の私が止めたって、説得力などあるわけなかった。

 そして。
「うーんと……」
「……」
 駄目だ。
 この構図だけで、すでに頭が上がらない。
 向こうの秀樹はしっかりと服を着ているというのに、こっちの私は上半身裸だし、それに下半身にはまったく似合わない女物のパンツを身につけているし。
 それなのに、秀樹はいつものような表情で、こんな情けない姿をした私を静かに見下ろしていた。
 なんとなく流れでこうなってしまったんだが……本当に、これからどうなるんだろう。
「えっと、今は男の子なのに、ひらひらのレースのついたピンクな女の子のパンツ履いてて、それを俺に見つめられて勃起とか、変態じゃない……の?」
 ピクッ。
 明らかに棒読みだと言うのに、すでに雄々しく勃っている私のペニスが、しっかりと反応した。
 今履いている……というより身に着けている、そのレースつきのパンツを、私のペニスが勢いよく押し上げている。
「う、うわっ、罵られてるのに感じてるんだ。変態だね」
 そんなやる気のない罵りだというのに、私のペニスはまたピクッと動く。
 ……なんか、人間として終わっているような、そんな気がした。
 ついさっき、罵られて興奮?なんてこと、考えていたはずなのに。
 自分の中に、こんな歪んだ欲望が存在していたのだろうか。

「それにアレ、彼氏の履いてたパンツなんだし……俺には秘密でこっそり履いてて、興奮したんだ?」
「い、いや、その」
 ……きっと、事情を知らない人から見ると奇妙ところか倒錯極まりない光景なのだろう。
 そんなの、容易に想像がつく。
「こんなに罵られて感じてるし、こんな柾木の情けない姿、ここの人たちが見るとどう思うんだろうね? なんて」
「……っ」
 私のペニスは、自分の意志とは反対にピクンと反応してしまう。
 こんな姿、もし見られたとしたら社会的にも終わりだ。
 自分がどれほど倒錯した人間なのか、これでわかってしまったような気がする。

「いや~こんな風景、茨城のやつが見たらどんな反応なのかな~」
 見事な棒読みだが、その言葉は私に刺さるものだった。
 慎治にこんなのを見られるとか、そんな悪夢、想像したくもない。きっと、私は死ぬまであいつに頭を上げられなくなるんだろう。
 ……さっきから、ペニスの先っちょでくすぐったい感覚がある。
 それが何かなのかは、もう確認するまでもないだろう。
 秀樹の下着が、私の勃ったペニスに密着して、それでこんなこそばゆい感覚がするんだ。
「元の姿」の時だって、性器に下着が密着されたことは数え切れないほどある。
 なのに、どうしてこの布の擦るような感触は、ここまで馴染めなくて、背徳感にまみれているのだろう。
 ちゃんと服を着ている「女の子」の秀樹は、ほとんど裸身なのに、下着だけ女物をつけている「男子」の私を見下ろしている。
 こんな惨めな気持ちを味わったのは、生まれてから初めてだ。
 自分のペニスがタイトな女性の下着を押し上げている様子、そのペニスが繊細な下着の布に荒く擦られる感覚、そんな私を見下ろす秀樹の視線――その全てが、私を嫌になるほど興奮させている。

 その時、秀樹がこちらを見下ろしたまま、無垢な顔でこう話しかけてきた。
「えっと、柾木、ちゃんと興奮してる?」
「……っ」
 いきなり投げられた秀樹のその話に、私は必死に視線を逸してしまう。
 本当にみっともないけど、私は秀樹の見ている通り、ちゃんと罵りに興奮していた。
 もうペニスが、痛くて痛くてたまらない。
 もう一押しされたら、はしたないけど、そのまま漏らしてしまいそうだった。
「そこまで気持ちいいなら、もうちょっとだけやってみようか?」
「も、もう結構……」
 と言いかけて、そのままやめてしまう。
 まず、あまりにも恥ずかしかったため、声がうまく出てこない。今までも恥ずかしかった場面は何度かあったけれど、ここまでの気持ちになったのは初めてだった。
 それに、すでに興奮してるくせに、今更「あれは誤解だった」なんて言えるわけがない。
 きっと、今の私が何を話したとしても、説得力なんか微塵もないのだろう。
「うーむ、やっぱり今の柾木、いつもより興奮してるようだし……」
「そ、そう言われると、誰だって……」
 こちらが掠れた声でそう答えると、秀樹の目が丸くなる。
 どうしてだろう。今、すごく悪い予感がした。
「えっ、もっと攻めたことを口にした方がいいの? さっきじゃ興奮し足りないとか?」
「……そ、そんなんじゃ」
 ダメだ、話がだんだんおかしくなっていく。
 このままじゃ、きっと秀樹はもっと誤解してしまうのに――興奮のせいで、未だに上手く声が出てこない。
「うーん、アレでも物足りないかぁ……じゃ、もう少しだけキツくやってみるね。柾木がもっと興奮できるようにさ」
 どうやら、秀樹はまだまだ、私が刺激が足りないって感じてると判断したらしい。
 ……すごく反論しておきたかったが、さすがにここまで見事なテントを、それも女性のパンツで張っている立場では何も言えなかった。

「んと、それじゃ」
「……」
 少し考え込んでいた秀樹は、再びこちらに視線を向けながら、私の股間へと足を近づけてきた。
 ……足?
 ひょっとして、言葉だけじゃなくて体でも罵って欲しい、と受け取ったんだろうか?
 い、いや、さすがにそれはちょっと……とも思ったが、そもそもここまで興奮しているのが丸見えの自分に、選択権などあるわけがない。
 やがて、その足を私のペニスにくっつけた秀樹は、言葉を選ぶような顔をして、口をあけた。
「えっと、実は俺のことがずっと気になってたのに、恥ずかしいから気に食わないフリをしてたくせ……に?」
「……っ」
 その言葉は、私に効く。
 ペニスの先っちょから、何かネバネバしたものが漏れてくるのを感じた。
 今、自分のペニスに秀樹の足がくっついている――それだけでも、興奮するには十分だったらしい。
「素直になれなくて嫌なフリをしてたくせに、今は俺の言葉にここまで興奮してるし、もう救えないね……って、これで大丈夫かな」
「も、もう、その……」
 声が、出ない。
 恥ずかしさと、情けなさと、あらゆる感情のせいで――声が、うまく出なかった。
 秀樹の足先の感触が、勃起したペニスの向こうから感じられる。
 それは、どうしようもなく背徳的で、敏感で、自分の支配権が向こうに渡されたような、今までにない感覚だった。
「あっ、もう我慢できなくて先走ってるんだ。本当、情けないね」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 ここまで(棒読みで)罵られてるというのに、私のペニスは、ますます激しく脈打っている。
 心の底から湧き出てくる、すごい屈辱感。
 でも、なぜだろう。
 今の自分は、おかしいくらいペニスを勃たせている。
 私は間違いなく、このシチュエーションに性的に興奮しているのだ。

 そして。
「よい……しょっと」
「……くっ!」
 白い靴下を履いた秀樹の足が、私のペニスをぐっと押し込んだ。
 とは言え、そこまで強い力じゃない。
 きっと、秀樹は私のことを(間違って方に)気配って、力を抑えているのだろう。
 だが、すでに我慢汁までこぼしている情けない私に、あの刺激はあまりにも強すぎた。
 ここまで自分の性器がぐちゃくちゃに扱われたのは、初めてなのかもしれない。
 その、自分の性器を蔑ろにしているのが、他でもない秀樹だというのが、また自分の興奮を高めてしまう。

「えっと、罵られて勃っちゃう雑魚チンコ……これならいいのかな?」
「……っ」
 ダメだ。
 秀樹の声でこんなことを言われながらペニスを踏まれると、もう耐えられない。
 すでに下の方は、我慢の限界だった。
 自分の顔が、あまりにも赤くなっていることを感じ取ってしまう。
 あまりにも無垢なその声が、私の背徳感をより一層高めていた。
「ふ、踏まれて気持ちよくなれるんだ。いつもは強気なのにドMだね、柾木って」
「はぁ、ち、違……」
 嘘だ。少なくても気持ちいいのは秀樹のいう通りである。
 自分の欲望をありのまま表しているペニスが、その証であった。
「こういうの、好きだったんだ。自分の性器がぞんざいに扱われて、嬉しい?」
「は、はぁ、ふぅ……」
 答えられない。
 今、何を答えても、こんな状況では滑稽になるだけだ。

「外ではいつもしっかりしてるくせに、私生活はここまでド変態とか、きっとみんな驚くよね」
「……はぁ、ふぅ」
 秀樹の口調は誰から聞いても棒読みだというのに、その一つ一つが、私のペニスに刺さってくる。
 自分って、こういう歪んだ性癖の持ち主だったのだろうか。
 本当は誰かに罵られるのが好きで、それに興奮してペニスを固くする、そんな野郎だったのだろうか。
 こんな姿、きっとみんなには幻滅されるのだろう。
 このような姿は、目の前の秀樹くらいしか受け入れてもらえないんだ。
「まあ、そんな変態野郎のこと、満足させられるのは俺しかいないよね。か、感謝しなさいよね」
「も、もう、はぁ……」
 私の声から今の状態を受け取れたのか、秀樹は覚悟したような顔で、こちらをじっと見つめる。
「どう、俺の足でイキたいの? お願いされると、ちょっと考えてみるかも」
 ここまで棒読みだというのに、秀樹は本当に意地悪だ。
 これって、ここまで「しっかり」罵ってイカせてあげたい、という意味なのだろうか。
「ああ、……頼むから、出させてくれ」
 だから、私は自分の苦しそうなペニスを見ながら、そう頷いた。
 そもそも、もう見栄を張る意味なんてどこにもない。
 今の私は、秀樹の許しがないと射精すらできない身なのだ。
「えっと、こうやって足で踏まれて出されるのに? 本当に救いようがないね、柾木は」
「……それでいい。もう、限界なんだ」
 なぜか私は、そう答えている時、心の奥から湧き出る喜びを感じていた。
 ……ああ、やっとだ。
 やっと、出してもらえる。
「じゃ、お、俺がこうやって踏んであげるから、だらしなく射精してよ、ね」
 そう拙く口にしてから、秀樹は再び、その足で私のペニスを踏んできた。
 ――ダメだ。
 もう、我慢なんかできない。
 どびゅっ、どびゅっ!
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
 瞬く間に、私がつけていた秀樹の下着は、ドロドロした精液でいっぱいになる。
 きっと、さっきから溜め込んでいた分が爆発したせいなのだろう。
 フリフリの女の子のパンツが精液まみれになっていく光景は、自分から見てもかなりグロテスクだった。
 自分から出てきた精液と、さっきまで興奮していた体からの熱のせいか、すごく暑くて、耐えられる気がしない。
「はぁ、はぁ……」
 なぜだろうか、自分の目に涙が浮かんでいるのを感じる。
 恥辱のせいか、快感のせいか、その原因は、自分でもよくわからない。
 ただ、今の状況があまりにも倒錯していること――それだけは、非常によくわかった。

「だ、大丈夫、柾木?!」
 こちらがヘロヘロしていると、秀樹はすぐ、こちらへと飛び込んできた。
「はぁ、だ、大丈夫だって」
「だ、だって涙目じゃん。気持ちよくて涙が出てるのならまだいいけど……」
「も、もうその話はするな。は、恥ずかしい……から」
 まだ、声がうまく出ない。
 興奮と恥辱で、喉に力が入らなかった。
「でも、すごくたくさん出たね。やっぱり興奮してたからかな?」
「だ、だから……」
 恥ずかしい。
 さっきの罵りに興奮していたのも、自分がここまで激しく反応したのも、ただただ恥ずかしかった。

「や、やっぱり、さっきのアレ、やらなかった方がよかった?」
 私のことが気にかかるのか、秀樹はこっちを見つめながら何度もそう聞いてきた。
「い、いや、その」
 秀樹の心配そうな顔を見ていると、どうも「すごく大変だった」とは言えない。
 だって、秀樹は誤解ではあったものの、私のために頑張ってくれたのだから。
 ……頑張りすぎて、こんな有様になっちゃったけど。
「こ、こっちのこと考えてくれたんだろ。秀樹のせいじゃない」
「じゃ、ちゃんと感じてくれたんだ」
「……っ」
 さすがに、ここまで出してしまったのに否定することはできない。
 ただし、あまりにも恥ずかしかったため、私は秀樹からそっと視線を逸した。
 ……そもそも、まだ精液も取っていないし。
 気持ちよかったのは確かだけど、このままじゃ、私、いけない人になってしまいそう。
「俺さ、さっきはずっとビクビクしてたんだよ。こんな言葉で柾木はちゃんと興奮してくれたのかな、ってね」
「べ、別にそんなの……」
「だって、あそこまでムリヤリ責めてたんだよ? どれだけ柾木のお願いだったとは言え、彼氏としてはちょっと嫌だったなぁ」
 そこまで口にして、今度は秀樹が私の方から視線を逸してしまった。
 ――本当に、秀樹はかわいいなぁ。
 こんな人が私の彼氏で、本当によかった。
「ありがとう。ちゃんと気持ちよかったから、そんな顔はしなくてもいい」
「ほ、ほんと?」
「ああ」
 秀樹の驚くような顔を見ながら、私はそっと頷いた。
 ……なぜか、自分がすごく危ない人間になってしまったような気持ちになったが、それでも、この気持ちは揺るがない。

 秀樹と私は、いや、秀樹と出会う前から、自分はずっと倒錯した存在だった。
 普通の人間なら決して縁のなかった快楽を知り、その快楽を自分の一部として受け入れてきた。
 だから、きっと今の自分は、他の人から見ると大いに歪んでいる。
 自分のことを女の子だと思っているというのに、「別の姿」の男の快楽に溺れる。そして、そんな自分のことを、ありのまま受け入れている。
 私はもう、そんなところも自分の一部として受け入れているわけだけど。
 きっと、私の「表」だけを目にした人がそれを知ったら、目を丸くするに違いない。
 ましてや、今回のことが知られたら尚更だ。

 確かに、今回の出来事はあらゆる意味で予想外だったし、私だってすごく戸惑ったけど……。
 それでも、私がさっきまで感じていた快楽は汚いものじゃない。確かに他の人に知られると白い目で見られるかもしれないけど、自分のことを軽蔑することはまったくないんだ。
 まあ、別に誰かに罵られたいとか、そういう欲望は持っていないけど……。少なくとも、それに興奮したことが悪いわけではない。
 そういう、「普通の人にバレると恥ずかしい」ことは、どうしても見てみないフリをしたり、認めたくないって思いがちなんだけど。
 私は、普通じゃない状況に好奇心を持つことも、それに興奮することも、忌み嫌ったり恥ずかしがらずに、ありのまま受け入れていきたいと思う。
 それもまた、自分の持つ一面であるわけだから。
 ……いくらなんでも、赤の他人に語るのは遠慮したいけど。

 その時、「端末」が秀樹からのメッセージを知らせてきた。
「メッセージ?」
 今回はなんだろう。また置き忘れていたものでもあったのだろうか。
 そう思って、メッセージを見てみると。
『えっとさ、柾木。さっきのやつ、気持ちよかったらまたやろうか?』
 どうしてか、そのメッセージを送る時の秀樹の顔が思い浮かんでしまって、私はくすりと笑ってしまった。
 気持ちは嬉しいけど、さすがにそれは遠慮したい。
 まったく、秀樹はいつもこうだから……。