「自分の愛する娘の代わりに、生き延びている気分はどうだ?」
その都会には、少し変わったバーがあるー。
昼にはちょっとしたカフェ、そして夜には立派なバーになるある店。
そこのバーテンダーである三木灯花(みき・とうか)は、客から「笑わないバーテンダー」と呼ばれていた。
長い黒髪を持つ、現役大学生の美人ーという印象とは違って、彼女は笑うことがない。感情を表すときはあるが、「笑って」いる表情はほとんど見かけない。自分のことを「俺」と呼ぶなど、口調にも少し変わったところがあった。
冷たいというより、感情が薄いというより、あるいは傲岸不遜だというより、彼女は、今まであまり笑う「必要性」を感じなかったように見えた。
年離れしているバーや酒についての深い知識、その有様と口調、「めったに笑わない」その性格。
そして、なぜか男性が近づくときにはすかさず出てくるスタンガン。
彼女が注目されるのは、それで十分だった。
そんな彼女、灯花は、ある日、自分の店の前で倒れていた男性を「拾う」。
ガタイはしっかりしているのに、なぜか危なっかしい大学生の男性。
青年は、その名を「俊夫」といった。
灯花にとって、その名は、まるでよくできた歪んだ運命のように思えた。
その日から、彼女のバーには少し変わった人たちが訪れるようになる。
やけにコミュ力が高い、いつでも元気なかわいいJK、愛想を振りまくことに疲れてしまった会社員の女性。
カリスマで通じているはずの、どこか読めない男子俳優。皮肉がうまい、メガネをかけた会社員の男性。
彼女が拾った、「酒が飲めない」大人である俊夫。
そして、なぜか「ここ」に訪れてくる、奇妙なる事件たち。
この夜も、彼女のバーは明かりをつけて待っているのだろう。
少し現実離れの奇遇な事件を連れてくる、様々な「訳あり」の人たちをー。
大人のための「キャラ文芸」のフリをした、どこか不思議な夜の物語。
キャラクター
三木 灯花 (みき・とうか)
「今度は俺に、何の用事だ」
とあるバーのバーテンダー。大学生。黒髪ロング。
若いながら、とてもそうは思わせない知識や雰囲気を持つ。
いわゆる「笑わないバーテンダー」。
男が近づくのを非常に警戒しており、いつもスタンガンを携帯している。
花澤 美林 (はなざわ・みりん)
二ノ宮 大輔 (にのみや・だいすけ)