あおぞら_02

「こ、これが制服なんだ」
 自分の制服を目の前にして、蒼乃がそう呟く。そりゃ、蒼乃には戸惑うしかないだろう。なんにせよ、それは元なら『俺』が着るべきもの、つまり男性用の服だからだ。
 「どうだ。着られそうなのか?」
 「サイズは合いそうだけど……いざこうなってみると迷うね。わたしがこういうのを着るって、考えたこともないから」
 「まあ、そうだろうな。こちらも、なんだ、だから……」
 自分用の服の方へは視線を向けず、俺はそう言葉に詰まるしかなかった。これすらお互い様だからな。『普通』の人なら決してしないし、するはずもない悩みのせいで頭を抱えるのは。
 「なんか、これを着た兄さんが見たいね。もちろん、その、鏡を見たらすぐわかっちゃうけど」
 「そうだな。あちらの方が着てみたかったな」
 とはいえ、この姿でそれを着てみてもおかしいだけに決まっている。あれは『今』、蒼乃が着るべきものだ。もちろんそれを見る立場である俺は複雑な気持ちに囚われるはずだが、今は仕方がないことである。
 「そう言えばこれ、他の人がおかしく思わないかな」
 「むしろ俺が着た方がそう思われるのだろう。その、今の蒼乃にはアレが似合ってるわけだから気にするな」
 「う、うん、でも、つい気になっちゃって」
 「その気持ちはわかるが、今は俺の姿だし、大丈夫だって」
 話せば話すほど、俺は自分たちのしゃべりがいかにチグハグなのかに気づく。これは誰が聞いても絶対におかしい。何も知らない人が俺らの会話をひっそりと聞いていたとしたら、そのおかしさに吹いてしまうのだろう。
 だが、これが『今』の俺らだ。
 誰に笑われたって、こうなったのは事実だから仕方ない。
 「なんだか、ものすごく恥ずかしいことをやってる気がするね」
 「そうだな、先に言っておく。すまん」
 「うん? ……あ、そ、そうなんだ。あはは」
 蒼乃は今更気づきたか、困った顔で苦笑いする。よく考えてみると、入れ替わってそこそこ時間は経っているから慣れているはずなのに、お互い、この話題になるとすぐ顔を赤くする。まあ、さすがに色物の話題は兄妹同士ですべきものではないからな。
 そうはともかく、これからはこの制服を着た俺、ではなく蒼乃と一緒に登校することになるのか。どう思っても、しばらく慣れそうにない。となりで自分がいるのを我慢しなければならないなんて。
 誰からどう見ても、世の中で一番おかしな兄妹だな、俺らは。
 前から思ってはいたが、本当に困ってもんだ。これから一年は確実にこうやって生きてゆかなければならないと来たらなおさら。