だからふたりは。
好きになったことは、はたしていつ頃だったんだろう。
もう覚えていないくらい、長い間、わたしたちはずっと一緒だった。
「今」だって、いつも一緒にいるのは変わらない。遠くから見れば、わたしたち二人は、ありふれた、幸せそうに見える夫婦に過ぎないのだろう。
おだやかに流れる、普通のように見える日常。
しかし、わたしと「あの子」に、その日々は決して穏やかなだけじゃなかった。
ある日、その異変は起きた。
今振り返ってみても、どうしてそうなったのか、到底わからない異変。
「あの子」の姿が、突然変わってしまった。
姿だけではない。「世界」その自体が、あの子の「本当の姿」を覚えていなかった。
たしかあの子の姿が変わったからこそ、「今」のわたしたちがいるのは間違いない。もしその異変がなかったら、わたしたちの結婚は祝福されたかどうか。
だが、やはりわたしたちは戸惑ってしまう。
これでいいのか。
わたしにとって、あの子はどのようにいてほしい存在だったのか。
まるで欺瞞するように、嘘のように、そしてよくできたジョークのように。
このおかしな日常は、流れるように続いてゆく。
わたしたちは、いったいどうすればいいのだろう。
それもわからぬまま、今日も一日がはじまる。
わたし:「あの子」の妻。昔から男らしいという話をよく聞きながら成長。「あの子」とは付き合いが長く、幼馴染の間柄である。
「あの子」:ある日とつぜん、なぜか姿が変わってしまった女の子。「わたし」とは幼馴染であり、恋人であり、相棒でもあった。「わたし」とは逆に、おだやかでゆるやかな性格。このような困った状況になっても、戸惑う「わたし」をやさしく包み込む。